会社を退職してフリーランスになった年の確定申告

年の途中で会社を辞めてフリーランスになった年の確定申告は、「前職の給与」と「独立後の事業収入」を1枚の申告書にまとめるのがポイントです。しかも退職した年は年末調整を受けていないため、給与から引かれていた所得税が納め過ぎになっていて、申告すると還付されるケースが少なくありません。この記事では、退職1年目に特有の申告のやり方と、退職直後にやっておく手続きを整理します。

なぜ退職した年は申告が必要で、還付されやすいのか

毎月の給与から引かれる源泉徴収税額はあくまで概算で、本来は年末調整で精算されます。ところが年の途中で退職して再就職しない場合は年末調整を受けられないため、国税庁も「所得税及び復興特別所得税が納め過ぎとなる場合があります」と案内しており(タックスアンサーNo.1910)、その精算は自分の確定申告で行うことになります。源泉徴収は「12か月働く前提」の概算なので、在職期間が短いほど納め過ぎになりやすい構造です。

  • 独立1年目で事業がまだ赤字・低利益: 給与の納め過ぎ分がそのまま戻ってきやすい典型パターンです
  • 開業準備で経費がかさんだ: 事業所得のマイナスは給与所得と損益通算でき、税額がさらに下がる余地があります
  • 生命保険料控除・iDeCoなどを年末調整で反映していない: 退職後は自分で申告しないと控除が反映されません

還付の仕組みそのものは源泉徴収された税金が戻ってくる仕組みと計算例で詳しく解説しています。なお納める税額がなく還付を受けるだけの申告(還付申告)は、その年の翌年1月1日から5年間提出できます(国税庁タックスアンサーNo.1910)。

申告書には「給与」と「事業」を両方載せる

退職した年に申告書へ載せる所得(令和7年分以後)
所得の種類金額の計算根拠になる資料
給与所得(1月〜退職まで)給与収入 − 給与所得控除(収入190万円以下なら65万円)前職の源泉徴収票
事業所得(独立後)売上 − 必要経費 −(青色なら)青色申告特別控除帳簿・請求書・領収書

この2つを合算した所得から、社会保険料控除や基礎控除などの所得控除を差し引いて税額を計算し、最後に源泉徴収ですでに納めた税額を差し引きます。差し引き結果がマイナスなら還付、プラスなら不足分を納付する、というのが申告書1枚の中で完結します。給与所得控除は令和7年分以後、給与収入190万円までは最低額の65万円です(国税庁タックスアンサーNo.1410)。青色申告特別控除の要件と控除額の違いは青色申告特別控除の解説を参照してください。

前職の源泉徴収票を必ず受け取る

退職した年の申告で最重要の書類が、前職が発行する「給与所得の源泉徴収票」です。退職後に会社から交付されます(届かない場合は会社に請求できます)。申告で使うのは主に次の3つの欄です。

  • 支払金額: 1月から退職日までの給与・賞与の合計。申告書の「給与収入」にこの数字を使う
  • 源泉徴収税額: すでに天引きで納めた所得税。精算の起点になる最重要の数字
  • 社会保険料等の金額: 給与から天引きされた健康保険・厚生年金など。全額が社会保険料控除の対象

そのほか申告全体で必要になるものは確定申告に必要なものチェックリスト、申告書の作成から提出までの手順は確定申告の流れにまとめています。

退職金をもらった場合の扱い

「退職金だけなら原則申告不要」と「確定申告する際に退職金を省いてよい」は別です。事業所得の申告や医療費控除・寄附金控除などのために確定申告書を提出する場合は、退職所得の金額も記載します。退職金を事業の売上や給与収入に足すのではなく、退職所得として扱います。

退職金と確定申告の関係(国税庁タックスアンサーNo.1420)
退職時の手続き源泉徴収確定申告
「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出した退職所得控除を反映した正しい税額が源泉徴収される退職所得については原則不要。ただし、別の理由で確定申告書を出す場合は退職所得も記載
提出しなかった支払額に対して一律20.42%が源泉徴収される確定申告で精算する(納め過ぎなら還付)

退職所得には勤続年数に応じた退職所得控除(勤続20年以下: 40万円×勤続年数・最低80万円、20年超: 800万円+70万円×(勤続年数−20年))があり、控除後の金額の2分の1を退職所得とするのが原則です。ただし、短期退職手当等・特定役員退職手当等では2分の1計算に例外があります。同年に複数の退職金を受けた場合なども控除計算が変わるため、自己判断で同じ控除を重ねず税務署や税理士に確認してください。

  • 給与の源泉徴収票とは別に、退職所得の源泉徴収票・特別徴収票を用意する
  • 確定申告書等作成コーナーでは退職所得の入力欄を確認し、事業の売上へ混ぜない
  • 退職所得の受給に関する申告書の提出有無、複数の退職金や過去の受給の有無を確認する
退職所得は原則として他の所得と分けて税額を計算しますが、確定申告をする場合の記載は必要です。根拠は国税庁No.1420「退職金を受け取ったとき」の税額の計算方法です(2026年9月22日確認)。退職金を入力しないまま還付額だけを比較しないようにしてください。

退職からフリーランス開業までの手続きチェックリスト

  • 国民年金への切り替え: 退職日の翌日から14日以内に住所地の市区役所・町村役場で第1号被保険者への手続き(日本年金機構)。扶養していた配偶者(第3号被保険者)も同時に切り替えが必要
  • 健康保険: 国民健康保険に入るなら資格喪失日から14日以内に市区町村へ届出(保険料は加入資格が生じた月まで遡って計算)。会社の健康保険の任意継続などとの比較はフリーランスの保険の整理を参照
  • 開業届: 2026年1月1日以後に開業した場合は、開業した年分の所得税の確定申告期限までに提出。書き方は開業届の書き方チェックリスト
  • 青色申告承認申請書: 提出期限を過ぎるとその年は白色申告になります。期限は青色申告承認申請書の書き方と提出期限で確認
  • 住民税: 給与天引き(特別徴収)ができなくなるため、退職後は自分で納付書で納めることになります。翌年6月に届く通知の見方は住民税・国保の通知が届いたらを参照
開業届の期限は、提出する日ではなく開業した日で区分します。 2025年12月31日以前の開業は、従前の「事業開始から1か月以内」です。青色申告承認申請書は別の手続きで、原則は青色申告をしようとする年の3月15日まで、1月16日以後の新規開業は事業開始日から2か月以内です。期限が土・日・祝日等の場合は翌日になります。この期限説明は国税庁A1-5・A1-8と財務省の改正解説(82〜83頁)を2026年10月8日に確認しました。

控除の拾い漏れと、帳簿の準備を忘れずに

  • 退職後に自分で払った国民年金・国保の保険料も、給与天引き分と合わせて全額が社会保険料控除の対象です。納付額がわかる書類を保管しておきましょう
  • 生命保険料控除・地震保険料控除は年末調整で処理されないため、秋に届く控除証明書を確定申告で使います
  • 失業手当(雇用保険の基本手当)は非課税(雇用保険法12条)なので、申告書に収入として載せる必要はありません
  • 開業前に払った準備費用(セミナー代・打ち合わせ費・備品など)は開業費にできる場合があります。開業費の扱いを参照

そして意外と差がつくのが帳簿です。独立した日からの売上・経費は確定申告の事業所得の計算にそのまま使うため、退職直後から記帳を始めておくと翌年2〜3月に慌てません。青色申告の65万円控除には複式簿記での記帳が要件になるので、最初からクラウド会計ソフトを比較して自分に合うものを選んでおくと、給与(源泉徴収票の転記)と事業をまとめた申告書の作成までソフト側で完結できます。

フリーランスの手取りシミュレーター独立後の売上から税金・保険料を引いた手取りを試算。会社員時代との比較の目安に

税額の精算結果や退職金の課税は、退職時期・収入・控除の状況によって変わります。制度の詳細は国税庁タックスアンサー(No.1910・No.1420)や税務署・税理士に確認してください。基本の解説は2026年7月2日時点の情報に基づき、退職金の申告関係は9月22日、開業届の期限・適用日は10月8日に確認しています。記事全体を同日に再確認したものではありません。

よくある質問

退職した年、フリーランスの収入がほとんどなくても確定申告したほうがいいですか?

申告したほうがよいケースが多いです。年末調整を受けていない給与は源泉徴収が概算のままなので、確定申告で精算すると納め過ぎ分が還付される可能性があります。納める税額がない場合の還付申告は、その年の翌年1月1日から5年間提出できます(国税庁タックスアンサーNo.1910)。

失業手当(雇用保険の基本手当)は収入として申告しますか?

いいえ。雇用保険の基本手当などの失業等給付は雇用保険法12条により非課税とされており、確定申告書に収入として記載する必要はありません。配偶者控除などの所得判定にも含めません。

退職金も確定申告に含める必要がありますか?

「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、退職所得については原則申告不要です。ただし、事業所得の申告や医療費控除・寄附金控除などの理由で確定申告書を提出する場合は、退職所得も記載します。事業売上や給与収入には混ぜません。受給に関する申告書を提出していない場合は支払額の20.42%が源泉徴収され、確定申告で精算します(国税庁No.1420)。

前職から源泉徴収票がもらえない・なくした場合はどうすればいいですか?

まず前職に発行(再発行)を依頼してください。会社には交付義務があります。依頼しても交付されない場合は、税務署に「源泉徴収票不交付の届出書」を提出して相談する方法があります。給与明細だけで自己判断で申告する前に、税務署に確認するのが確実です。

退職した年の国民年金や国保の保険料は控除できますか?

できます。退職後に自分で納めた国民年金保険料・国民健康保険料は、在職中に給与から天引きされた社会保険料(源泉徴収票の「社会保険料等の金額」欄)と合わせて、全額が社会保険料控除の対象になります。国民年金は控除証明書、国保は納付額のわかる書類を確定申告まで保管してください。

ここに無い疑問は、そのまま送ってください

いただいた質問は、このページとよくある質問の改善に使います。 個別の税務相談にはお答えできませんが、多い質問から記事にしていきます。