フリーランスの保険の整理
フリーランスになると会社の社会保険から外れ、「医療(健康保険)」と「働けなくなったときの備え」を自分で選ぶことになります。どれが正解かは前年所得・扶養家族・貯蓄の状況で変わるため、この記事では「これが最適」と断定せず、判断の軸を整理します。数字は必ずご自身のケースで試算してください。
退職後の健康保険は主に4つの選択肢
| 選択肢 | 保険料の決まり方 | 検討の目安 |
|---|---|---|
| 国民健康保険(市区町村) | 前年の所得と世帯人数で決まる | 前年所得が低め、または当面この先所得が下がる見込みの人 |
| 任意継続 | 退職前の健保を最長2年継続。労使折半がなくなり原則全額自己負担 | 前年所得が高く国保が割高になりそうな人、扶養家族が多い人 |
| 国保組合(業種別) | 組合ごと。定額の組合もある | 対象業種で、所得が高めの人 |
| 家族の扶養に入る | 保険料の自己負担なし | 収入が扶養の基準内に収まる人(配偶者等の健保がある場合) |
計算例: 任意継続の保険料はいくら?(東京都・令和8年度)
協会けんぽの任意継続保険料は「退職時の標準報酬月額 × 都道府県別の保険料率(子ども・子育て支援金率を含む)」です。東京都の令和8年度の健康保険料率は9.85%で、令和8年4月分からは全国一律の子ども・子育て支援金0.23%が加わります(40〜64歳はさらに介護保険料率1.62%を加算)。この料率で計算すると次のようになります。
- 退職時の標準報酬月額30万円・40歳未満: 30万円 × 10.08%(9.85%+0.23%) = 月30,240円(年約36.3万円)
- 退職時の標準報酬月額30万円・40〜64歳: 30万円 × 11.70%(介護分1.62%を加算) = 月35,100円(年約42.1万円)
- 退職時の標準報酬月額が32万円を超える人(例: 41万円): 上限の32万円で計算 → 32万円 × 10.08% = 月32,256円(年約38.7万円・40歳未満)
国保と任意継続、どちらが安い?(比較の考え方)
一概には言えません。 国保は前年所得が高いほど高くなりやすく、任意継続は退職時の給与水準で上限まで一定です。ざっくりした傾向としては、前年所得が高い人は任意継続が有利になりやすく、前年所得が低い人・扶養家族が多い人は国保が有利になりやすい、という方向感があります。ただし自治体の料率や均等割・扶養の数で逆転するため、両方を試算して比べるのが確実です。
| 前年の状況 | 国保(東京23区・令和8年度) | 任意継続(協会けんぽ・東京都) | この例では |
|---|---|---|---|
| 前年所得400万円(退職時の標準報酬月額32万円超) | 年約44.5万円 | 上限32万円で計算 → 年約38.7万円 | 任意継続が安い |
| 前年所得200万円(退職時の標準報酬月額26万円) | 年約26万円(月約2.2万円) | 26万円 × 10.08% → 年約31.4万円 | 国保が安い |
国保の金額は国民健康保険料の計算方法の計算例(東京23区・令和8年度の料率)によるものです。国保は前年所得が下がれば翌年度から安くなる一方、任意継続の保険料は原則2年間変わらないため、1年目は任意継続 → 所得の下がった2年目に国保へ切り替えるという組み合わせが検討されることもあります(任意継続は本人の申し出で途中でやめられます)。
- 市区町村の窓口(またはサイト)で国保の年間保険料の試算を出す
- 退職前の健保(協会けんぽ/組合)で任意継続の保険料を確認する
- 扶養に入れる家族がいないか、配偶者等の健保の扶養基準を確認する
- 1年目だけでなく、所得が下がる2年目以降の見込みも比較する
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国保組合という選択肢(業種が合えば)
特定の業種では、市区町村の国保ではなく業種別の国民健康保険組合に加入できる場合があります。所得にかかわらず定額の保険料としている組合もあり、所得が高い人は市区町村国保より負担が軽くなることがあります。例として、デザイナー・イラストレーター・文筆業などが加盟団体を通じて入れる文芸美術国民健康保険組合などが知られています。
働けなくなったときの備え(フリーランスの弱点)
会社員の健康保険には、病気やケガで働けない間の収入を補う傷病手当金がありますが、国保には原則ありません(多くの自治体で実施されていません)。つまりフリーランスは、長く働けなくなったときに収入が途切れやすい構造です。まず公的な備えで何があるか・ないかを把握しましょう。
| 備え | 会社員 | フリーランス |
|---|---|---|
| 傷病手当金(病気・ケガで働けないとき) | あり(下記の金額を最長で通算1年6か月) | 国保は原則なし |
| 労災(仕事中・通勤中のケガ等) | あり(保険料は会社負担) | 2024年11月から特別加入で任意に加入可 |
| 障害年金(一定の障害が残ったとき) | 障害基礎+障害厚生年金 | 障害基礎年金 |
傷病手当金の1日あたりの金額は「支給開始日以前12か月間の標準報酬月額の平均 ÷ 30日 × 2/3」で、同一の傷病について支給開始から通算1年6か月支給されます(協会けんぽ)。例えば平均の標準報酬月額が30万円なら1日あたり約6,667円(月に直すと約20万円)です。フリーランスにはこの部分が丸ごとない、と金額で押さえておくと、必要な備えの大きさをイメージしやすくなります。
不足分をどう埋めるか(選択肢の整理)
公的保障の薄い部分は、貯蓄や民間の保険などで補う考え方になります。どれをどれだけ用意するかは、毎月の生活費・扶養家族・すでにある貯蓄で変わるため、ここでは選択肢の整理にとどめます。
- 生活防衛資金: 数か月分の生活費を現金で確保しておく(最も基本的な備え)
- 労災の特別加入: 業務上・通勤のケガや病気に備える(2024年11月から対象拡大)
- 就業不能保険・所得補償保険(民間): 長期間働けないときの収入減に備える商品。要否は人による
- 小規模企業共済: 廃業・引退時の備えと所得控除を兼ねる(詳しくはこちら)
退職してフリーランスになる前後のチェックリスト
- 退職後の健康保険(国保/任意継続/扶養/国保組合)を試算して比較し、決める
- 任意継続を選ぶなら、退職日の翌日から20日以内に申請する
- 国保を選ぶなら、退職後おおむね14日以内に市区町村で加入手続きをする
- 国民年金(第1号被保険者)への切り替えを、退職後おおむね14日以内に行う
- 働けないリスクへの備え(貯蓄・労災特別加入・民間保険)を検討する
- 老後・廃業の備え(付加年金・小規模企業共済など)もあわせて確認する
保険料を払うのが厳しいときは、国民年金には免除・納付猶予、国保には軽減・減免の制度があります。未納のまま放置せず、まず窓口に相談するのが安全です。
払った保険料は確定申告で全額控除できる
国保・任意継続・国民年金のどれを選んでも、支払った保険料はその年に実際に支払った全額が社会保険料控除として所得税・住民税の計算で差し引けます(国税庁タックスアンサーNo.1130)。年間30万〜40万円規模の支出なので、控除の記載漏れは税額に直結します。納付書の控えや口座振替の記録を残し、確定申告書の社会保険料控除欄に忘れずに記載しましょう。日々の帳簿づけから申告書作成までまとめて済ませたい場合は、確定申告に対応した会計ソフトの比較も参考にしてください。
よくある質問
国保と任意継続はどちらが安いですか?
一概には言えません。国保は前年所得が高いほど高くなりやすく、任意継続は退職時の給与水準で決まり最長2年・原則全額自己負担です。前年所得が高い人は任意継続、低い人や扶養家族が多い人は国保が有利になりやすい傾向がありますが、自治体の料率で逆転するため両方の試算を比較してください。
任意継続はいつまでに手続きしますか?
協会けんぽの場合、退職日の翌日から20日以内に申請します。退職日まで継続して2か月以上の被保険者期間があることも要件です。加入できるのは最長2年間です。
任意継続の保険料は月いくらくらいですか?
退職時の標準報酬月額×都道府県別の保険料率で計算します。東京都・令和8年度(子ども・子育て支援金0.23%込み)の例では、標準報酬月額30万円・40歳未満で月30,240円です。標準報酬月額が32万円を超えていた場合は32万円で計算するため、月32,256円(40歳未満)が事実上の上限になります。料率は都道府県と年度で異なります。
フリーランスにも傷病手当金はありますか?
国民健康保険には傷病手当金は原則なく、多くの自治体で実施されていません。会社員の健康保険では、支給開始日以前12か月間の標準報酬月額の平均÷30日×2/3が通算1年6か月支給されます(平均30万円なら1日約6,667円)。働けなくなったときの収入減には、貯蓄や民間の就業不能保険・所得補償保険などで別途備えるかを検討することになります。
フリーランスは労災保険に入れますか?
2024年(令和6年)11月1日から、フリーランス法の特定受託事業者が労災保険の特別加入の対象になりました。仕事中・通勤中のケガや病気などが対象で、特別加入団体を通じて任意に加入します。