外注費を支払う側の源泉徴収

仕事が増えてきて、デザインや原稿を他のフリーランスに外注するようになった——このとき忘れがちなのが、源泉徴収の義務は報酬を「支払う側」にあるということです。受け取る側として源泉徴収されるのに慣れていても、支払う側の手続き(徴収・納付・支払調書)は別物です。この記事では、そもそも自分が源泉徴収をする立場なのかの判定から、納付の流れまでを順番に整理します。

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ステップ1: 自分は「源泉徴収義務者」か

最初の分かれ道は、外注費の中身ではなく自分が給与を支払っているかどうかです。国税庁タックスアンサーNo.2502では、源泉徴収義務者について次のように整理されています。

個人事業主が源泉徴収義務者になるかの判定(タックスアンサーNo.2502)
自分の状況源泉徴収義務者か個人への外注費の扱い
従業員を雇わず1人で事業をしているならない対象業務でも源泉徴収は不要
常時2人以下の家事使用人だけに給与を払っているならない対象業務でも源泉徴収は不要
従業員やアルバイトに給与を払っているなる対象業務なら源泉徴収が必要
青色事業専従者(家族)に給与を払っているなる対象業務なら源泉徴収が必要

つまり、1人で仕事をしているフリーランスが外注を出しても、原則として源泉徴収は不要です。給与所得について源泉徴収義務のない個人が支払う弁護士報酬などの報酬・料金は、源泉徴収の対象から外れると明記されています(タックスアンサーNo.2502)。

注意したいのは、家族に青色事業専従者給与を払い始めたタイミングです。専従者給与も「給与」なので、支払った時点で源泉徴収義務者になり、以後の対象業務の外注費には源泉徴収が必要になります。節税策の導入が、外注費の事務にも波及する点は見落としやすいポイントです。

ステップ2: その外注費は源泉徴収の対象業務か

源泉徴収義務者に当たる場合でも、すべての外注費から源泉徴収するわけではありません。対象になるのは所得税法204条1項に限定列挙された報酬・料金(原稿料、デザイン料、講演料、翻訳料、士業への報酬など)を個人に支払う場合だけです。プログラミングやシステム開発、事務代行などの外注費は原則対象外で、法人への支払いも原則対象外です。どの業務が対象かは源泉徴収の対象になる報酬・ならない報酬の一覧で詳しく整理しています。

  • ライターへの記事執筆の外注 → 原稿料として対象
  • デザイナーへのロゴ・バナー制作の外注 → デザイン料として対象
  • エンジニアへのコーディングの外注 → 原則対象外
  • 制作会社(法人)への外注 → 原則対象外
対象かどうかの判定を誤って源泉徴収をしないまま支払うと、後から不足分を追徴されるのは受け取った側ではなく支払った側です。グレーな業務内容は、契約段階で税務署や税理士に確認しておくのが安全です。

ステップ3: 税額を計算して差し引いて支払う

税額の計算は受け取る側と同じで、支払金額100万円以下なら10.21%、100万円を超える部分は20.42%です(計算の詳細は源泉徴収税の計算方法を参照)。たとえばデザイン料5万円の外注なら、源泉徴収税額は50,000円 × 10.21% = 5,105円、差引支払額は44,895円になります。請求書で本体価格と消費税が明確に区分されていれば、税抜の本体価格だけを源泉徴収の対象にできます。

帳簿の上では、差し引いた税額は納付するまで「預り金」として処理するのが一般的です(勘定科目の使い方)。先ほどの例なら「外注費50,000円/普通預金44,895円・預り金5,105円」という形で、預り金の残高と毎月の納付額が一致しているかを確認していきます。取引のたびに手で分けるのが負担なら、源泉徴収ありの取引登録に対応したクラウド会計ソフトの比較で紹介しているfreee・マネーフォワード・弥生を使うと、差引額と預り金の仕訳を自動で作れます。

ステップ4: 翌月10日までに納付する

差し引いた所得税および復興特別所得税は、原則として支払った月の翌月10日までに国に納めます(タックスアンサーNo.2502・No.2505)。納付は税務署や金融機関の窓口のほか、e-Taxからも行えます。

「納期の特例」は外注費には使えないことが多い

給与の支給人員が常時10人未満の源泉徴収義務者は、申請により納付を年2回にまとめられる「納期の特例」があります(1〜6月分を7月10日、7〜12月分を翌年1月20日まで)。ただしこの特例の対象は、給与・退職金と、税理士・弁護士・司法書士などの一定の報酬から源泉徴収した所得税に限られます(タックスアンサーNo.2505)。

源泉所得税の納付期限(タックスアンサーNo.2505)
源泉徴収の対象原則納期の特例を申請した場合
従業員・専従者への給与翌月10日7月10日・翌年1月20日の年2回
税理士・弁護士・司法書士等の報酬翌月10日7月10日・翌年1月20日の年2回
原稿料・デザイン料などの外注費翌月10日特例の対象外。毎回翌月10日

つまり、給与について納期の特例を受けていても、ライターやデザイナーへの外注費から源泉徴収した分は毎回翌月10日までに納める必要があります。「特例があるから半年に1回でいい」と思い込みやすい、支払う側の代表的な落とし穴です。納付が期限に遅れると、不納付加算税や延滞税の対象になる場合があります。

ステップ5: 年明けに支払調書を提出する

原稿料やデザイン料などの報酬を支払った場合、同一人への年間の支払金額の合計が5万円を超えるものは「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を作成し、翌年1月31日までに税務署へ提出します(タックスアンサーNo.7431)。消費税が明確に区分されている場合は、税抜金額で判断しても差し支えないとされています。なお、支払調書を受け取る側本人へ交付する法令上の義務はありません。位置づけは支払調書と源泉徴収票の違いで解説しています。

外注を始めるときのチェックリスト

  • 自分が給与(従業員・専従者)を支払っているか確認した(払っていなければ源泉徴収は原則不要)
  • 外注する業務が所得税法204条の対象業務か、相手が個人か法人かを確認した
  • 請求書の額面・消費税区分・源泉徴収税額・差引支払額を発注時に相手とすり合わせた
  • 差し引いた税額を預り金として記帳し、翌月10日の納付期限をカレンダーに入れた
  • 納期の特例を受けていても、原稿料・デザイン料の分は毎月納付だと理解している
  • 年間5万円超の支払先について、翌年1月31日までの支払調書提出を予定に入れた

外注相手との契約条件の決め方は業務委託契約書のチェックポイント、外注費が給与と認定されるリスクは業務委託と雇用の違いもあわせてご覧ください。

よくある質問

1人でやっているフリーランスがデザインを外注したら、源泉徴収は必要ですか?

従業員や青色事業専従者に給与を支払っていない個人は源泉徴収義務者に当たらないため、デザイン料のような対象業務を個人に外注しても源泉徴収は原則不要です。相手には額面どおりの金額を支払い、受け取った側が自分の確定申告で所得税を精算します。

家族に専従者給与を払い始めたら、外注費の扱いは変わりますか?

変わります。専従者給与も給与なので、支払った時点で源泉徴収義務者になります。以後は原稿料・デザイン料など対象業務の外注費を個人に支払う際、10.21%(100万円超の部分は20.42%)を差し引き、翌月10日までに納付する義務が生じます。

納期の特例を受けていれば、外注費の源泉所得税も年2回の納付でよいですか?

いいえ。納期の特例の対象は給与・退職金と税理士等の一定の報酬から源泉徴収した所得税に限られます。原稿料やデザイン料などの外注費から差し引いた分は特例の対象外で、支払った月の翌月10日までに毎回納付が必要です。

源泉徴収を忘れて額面どおり支払ってしまったらどうなりますか?

源泉徴収と納付の義務は支払う側にあるため、税務署から不足分を求められるのは支払った側です。気づいた時点で税務署に相談し、必要な納付を行ったうえで、取引先と差額の精算方法を話し合うことになります。放置すると不納付加算税や延滞税の対象になる場合があります。

支払調書は外注先の本人にも送る必要がありますか?

税務署への提出義務(同一人への年間支払合計が5万円超の報酬など、翌年1月31日期限)はありますが、支払先本人への交付は法令上の義務ではありません。慣行として送る事業者が多いものの、送られてこなくても受け取る側は帳簿から申告できます。