源泉徴収の対象になる報酬・ならない報酬一覧

同じフリーランスでも、ライターやデザイナーの報酬は源泉徴収されるのに、エンジニアの開発報酬は引かれない——この違いは取引先の気分ではなく、法律でどの報酬が対象かが決まっているためです。この記事では、源泉徴収の対象になる報酬・ならない報酬を職種別に一覧で整理し、判断に迷いやすいケースの考え方をまとめます。

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源泉徴収の対象は法律で「限定列挙」されている

個人への報酬・料金のうち源泉徴収が必要なものは、所得税法204条1項の1号〜8号に列挙されたものに限られます(限定列挙)。ここに載っていない業務の報酬は、金額が大きくても原則として源泉徴収されません。国税庁タックスアンサーNo.2792では、次の8区分が示されています。

所得税法204条1項の報酬・料金の区分(個人に支払う場合)
報酬・料金の区分フリーランスに多い例
1号原稿料・講演料・デザイン料など記事執筆、ロゴ・バナー制作、セミナー登壇、翻訳
2号弁護士・公認会計士・税理士など特定資格者の報酬税理士への申告依頼、司法書士への登記依頼
3号社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬(医療機関向け)
4号プロスポーツ選手・モデル・外交員などの報酬広告撮影のモデル料
5号映画・演劇など芸能関係の出演料等舞台・映像への出演
6号ホステス等の業務に関する報酬(接待飲食業向け)
7号役務提供を約することによる契約金専属契約の一時金
8号広告宣伝のための賞金・競馬の賞金コンテストの賞金
源泉徴収の対象になるのは原則として「個人」が受け取る場合です。法人が受け取る報酬は、馬主である法人に支払う競馬の賞金を除き、この源泉徴収の対象になりません(タックスアンサーNo.2792)。

対象になる報酬の例(フリーランスに多い業務)

源泉徴収の対象になる主な業務(所得税法204条1項1号・2号)
業務対象/対象外補足
記事・コラムの執筆(原稿料)対象Web媒体の記事執筆も原稿料に含まれる
イラスト・挿絵・漫画対象原稿料・挿絵料として1号に該当
ロゴ・バナー・Webデザイン対象デザイン料として1号に該当
写真撮影の報酬対象雑誌・広告等に使う写真の報酬
講演・セミナー登壇対象謝礼・お車代などの名目でも実態が講演料なら対象
翻訳・通訳対象1号に列挙
技芸・スポーツ・知識等の教授対象講座・レッスンの講師料など
弁護士・税理士・社労士など士業への報酬対象2号に該当(行政書士は原則対象外とされる)

注意したいのは名目ではなく実態で判断されることです。「謝金」「取材費」「調査費」「車代」といった名目で支払われても、実態が原稿料や講演料と同じであればすべて源泉徴収の対象になります(タックスアンサーNo.2795)。

対象にならない報酬の例

次のような業務は所得税法204条の限定列挙に含まれないため、個人への支払いでも原則として源泉徴収の対象外です。

  • プログラミング・システム開発の報酬
  • Webサイト制作のうちコーディングのみの作業
  • サーバー・サイトの保守運用、事務代行、データ入力
  • 商品の仕入れ代金や物品の購入代金
  • 行政書士への報酬(原則。業務内容により例外あり)

エンジニアの請求書に源泉徴収の記載が不要なのはこのためです。計算式や請求書での書き方は源泉徴収税の計算方法で詳しく解説しています。

判断が分かれやすいグレーなケース

  • デザインとコーディングを一括受注したWeb制作: デザイン部分は対象、コーディング部分は対象外。契約や請求で区分されていないと扱いが分かれやすい
  • 動画制作: 単純な編集作業か、構成・デザイン性のある制作かで判断が分かれる
  • コンサルティング: 「企業診断員の業務」に該当すると対象になる場合がある
源泉徴収をする義務は「支払う側」にあり、判断を誤ると支払う側が追徴されます。グレーなケースは自分で判断せず、取引先の経理担当や税務署・税理士に確認するのが安全です。

税額の計算はほぼ共通、司法書士だけ特殊

源泉徴収税額の計算式(国税庁タックスアンサーNo.2795・No.2801)
区分計算式
一般の報酬(100万円以下)支払金額 × 10.21%
一般の報酬(100万円超)(支払金額 − 100万円)× 20.42% + 102,100円
司法書士・土地家屋調査士・海事代理士(支払金額 − 1万円)× 10.21%

たとえば司法書士への報酬5万円なら(50,000円 − 10,000円)× 10.21% = 4,084円が源泉徴収されます(1円未満切り捨て)。また、請求書で本体価格と消費税が明確に区分されていれば、税抜の本体価格のみを源泉徴収の対象にできます。

対象の業務でも源泉徴収されないケース

  • 支払う側が源泉徴収義務者でない: 給与を支払っていない個人(会社員など)が支払う報酬は源泉徴収不要。個人のお客さん相手の仕事で引かれないのはこのため(タックスアンサーNo.2502)
  • 懸賞応募作品の入選や投稿の謝金で、1人1回5万円以下: 源泉徴収をしなくてよい特例がある(タックスアンサーNo.2795)
  • 受け取る側が法人: 法人成りすると、競馬の賞金を除き報酬から源泉徴収されなくなる

源泉徴収された税金は確定申告で精算する

源泉徴収は所得税の前払いです。確定申告で1年分の所得税を計算し、源泉徴収された合計のほうが多ければ差額が戻ります。詳しくは源泉徴収と還付の仕組みをご覧ください。取引ごとの源泉徴収額を申告で正しく差し引くには、入金時に請求額と源泉徴収額を分けて記帳しておくことが大切です。主要クラウド会計ソフトの比較で紹介しているfreee・マネーフォワード・弥生などは、源泉徴収ありの取引の登録に対応しており、申告書への転記もスムーズです。

なお、取引先から送られてくる支払調書は確定申告の添付書類ではありません。位置づけは支払調書と源泉徴収票の違いで解説しています。

よくある質問

自分の報酬が源泉徴収の対象かどうかはどう判断しますか?

源泉徴収の対象になる報酬は所得税法204条1項に限定列挙されています。原稿料・デザイン料・講演料・翻訳料・士業への報酬などは対象、プログラミングやシステム開発・事務代行などは原則対象外です。判断に迷う場合は支払う側の経理担当や税務署に確認しましょう。

エンジニアなのに報酬から源泉徴収されていました。どうすればいいですか?

システム開発の報酬は原則として源泉徴収の対象外なので、まず取引先に業務内容の認識と源泉徴収の要否を確認しましょう。実際に源泉徴収されて納付された分は、確定申告で源泉徴収税額として記載すれば所得税から差し引かれるため、取られっぱなしにはなりません。

講演のお車代や謝礼も源泉徴収されますか?

名目が謝金・取材費・車代などでも、実態が講演料や原稿料と同じであれば源泉徴収の対象です。ただし、主催者が交通機関やホテルに直接支払う通常必要な範囲の旅費・宿泊費は対象に含めなくてよいとされています。

個人のお客さんから受け取る料金は源泉徴収されませんか?

源泉徴収の義務は支払う側にあり、給与を支払っていない個人は源泉徴収義務者になりません。そのため、一般の個人のお客さんから受け取る料金は、対象業務であっても源泉徴収されないのが通常です。

司法書士への報酬はなぜ計算が違うのですか?

司法書士・土地家屋調査士・海事代理士に支払う報酬は、1回の支払いごとに1万円を差し引いた残額に10.21%を掛けて源泉徴収税額を計算する決まりです。たとえば報酬5万円なら(50,000円−10,000円)×10.21%=4,084円となります。