簡易課税制度の選び方

消費税の課税事業者が納める税額の計算方法には、実際の仕入れ・経費にかかった消費税を集計する「本則課税(原則課税)」と、売上から簡単に計算できる「簡易課税制度」があります。インボイスをきっかけに課税事業者になった人の多くは、いまは負担の軽い2割特例を使っていますが、この経過措置は期間限定です。その先を見据えると、簡易課税を理解しておく価値があります。この記事では、簡易課税の要件・みなし仕入率・本則課税や2割特例との比較を、国税庁の公開情報をもとに整理します。

本記事は2026年6月時点の国税庁の公開情報(タックスアンサーNo.6505・No.6509など)をもとにした一般的な解説です。どの計算方法が有利かは、業種・売上・設備投資の有無で変わります。最終的な判断は実際の数字で試算し、迷う場合は税務署や税理士に確認してください。消費税の税率・定数は変更されることがあります。

簡易課税制度とは:売上だけで納税額を計算できる仕組み

簡易課税制度は、仕入れや経費にかかった消費税を実際に集計しなくても、売上に係る消費税額だけで納税額を計算できる制度です。具体的には、売上に係る消費税額に、事業の種類ごとに定められた「みなし仕入率」を掛けた金額を「仕入れに係る消費税額」とみなし、売上に係る消費税額から差し引いて納付税額を計算します(国税庁タックスアンサーNo.6505)。

本則課税と簡易課税の計算の違い
項目本則課税(原則課税)簡易課税
納付税額の計算売上の消費税額 − 実際の仕入れ・経費の消費税額売上の消費税額 − (売上の消費税額 × みなし仕入率
集計するもの売上と、仕入れ・経費の消費税をすべて区分集計売上のみ(仕入れ・経費の集計は不要)
設備投資で還付受けられる場合がある受けられない(仕入れの実額を使わないため)
事前の届出不要必要(後述の期限あり)

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適用できる人:基準期間の課税売上高が5,000万円以下

簡易課税を選べるのは、次の2つを満たす場合です(国税庁タックスアンサーNo.6505)。

  • 基準期間(個人事業主は前々年)の課税売上高が5,000万円以下であること。
  • 「消費税簡易課税制度選択届出書」を、適用を受けたい課税期間の初日の前日までに提出していること。
「基準期間の課税売上高が1,000万円超」で課税事業者になるかどうか(=そもそも消費税を納めるか)の判定は、簡易課税が使える「5,000万円以下」とは別の基準です。課税・免税の判定は課税・免税の判定フロー、売上1,000万円を超えたときの準備は売上1,000万円を超えたらを参照してください。

届出の期限:使いたい年の「前年中」までに出す

簡易課税は申告のときに選ぶ2割特例とは違い、事前の届出が必須です。届出書は「適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで」に提出する必要があります。課税期間が暦年(1/1〜12/31)の個人事業主の場合、ある年から簡易課税を使うには、その前年の12月31日までに届出書を出しておく必要がある、ということです。

個人事業主の簡易課税 届出のタイミング(課税期間が暦年の場合)
簡易課税を使いたい年届出書の提出期限
2027年分(令和9年)2026年12月31日まで
2028年分(令和10年)2027年12月31日まで
2割特例を適用した課税期間の翌課税期間中に届出書を出せば、その提出した課税期間から簡易課税を適用できる特例があります(通常の「前年中まで」より遅らせて出せる)。2割特例の終了後にスムーズに切り替えたい場合に使えます。詳しくは2割特例の解説を参照してください。

いったん選ぶと「2年間」は本則課税に戻せない

簡易課税には継続適用のしばりがあります。簡易課税制度選択届出書の効力が生じた課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ、不適用(やめる)届出書を提出できません。つまり最低2年間は簡易課税を続ける必要があります。

この2年しばりが、簡易課税選択前の最大の注意点です。大きな設備投資(高額な機材・車両など)を予定している年は、本則課税なら仕入れの消費税が大きく還付になる可能性があるのに、簡易課税中は還付を受けられません。投資の予定があるなら、簡易課税の届出は慎重に判断してください。

みなし仕入率と事業区分(第1種〜第6種)

みなし仕入率は事業の種類ごとに6区分で定められています(国税庁タックスアンサーNo.6509)。率が高いほど差し引ける額が大きく、納税額は少なくなります。

事業区分とみなし仕入率(国税庁タックスアンサーNo.6509)
事業区分みなし仕入率主な事業の例納付の目安(売上消費税に対する割合)
第1種(卸売業)90%購入した商品を性質・形状を変えずに他の事業者へ販売10%
第2種(小売業ほか)80%購入した商品を性質・形状を変えずに消費者へ販売、飲食料品の譲渡に係る農林漁業20%
第3種(製造業ほか)70%建設業、製造業、鉱業、農林漁業(飲食料品以外)、電気・ガス・水道業など30%
第4種(その他)60%飲食店業など、第1〜3種・第5〜6種に当たらない事業40%
第5種(サービス業ほか)50%運輸通信業、金融・保険業、サービス業(飲食店業を除く)50%
第6種(不動産業)40%不動産業(賃貸・売買・仲介など)60%

デザイナー・ライター・エンジニア・コンサルタント・士業の一部など、フリーランスに多い「サービス業」は原則として第5種(みなし仕入率50%)に当たります。一方、飲食店業は第4種(60%)、ハンドメイド作品など自分で製造したものを売る場合は第3種(製造業70%)に当たることがあるなど、業種によって区分が変わります。1つの事業者が複数の事業を行う場合は、原則として区分ごとに計算します。自分の事業がどの区分かは国税庁の事業区分(No.6509)で確認してください。

計算例:サービス業(第5種)の場合

課税売上げ(税抜)が600万円・税率10%のサービス業(第5種)を例にすると、計算は次のようになります(地方消費税を含むおおまかな考え方。実際の申告では端数処理等があります)。

  • 売上に係る消費税額:600万円 × 10% = 60万円
  • みなし仕入れに係る消費税額:60万円 × 50%(第5種) = 30万円
  • 納付税額の目安:60万円 − 30万円 = 30万円

同じ売上でも、第1種(卸売業)なら 60万円 × 10% = 6万円、第2種(小売業)なら 12万円 と、区分によって納税額は大きく変わります。

本則課税・2割特例とどちらが有利か

判断のポイントは「実際の仕入れ・経費にかかる消費税が、みなし仕入率より多いか少ないか」です。

  • 実際の経費(課税仕入れ)が少ない事業(人件費・外注の少ないサービス業など)→ みなし仕入率で多めに差し引ける簡易課税が有利になりやすい。
  • 実際の経費が多い・大きな設備投資をした年 → 実額で差し引ける本則課税が有利になりやすい(還付の可能性も)。
  • 迷う場合は、本則・簡易の両方で試算して納税額の少ない方を選ぶ。ただし簡易課税は事前届出と2年しばりがある点に注意。
いまインボイス登録者の多くが使える2割特例は、売上に係る消費税額の「2割」を納める制度で、みなし仕入率80%相当です。簡易課税のみなし仕入率と比べると、第1種(90%)は簡易課税が有利、第2種(80%)はほぼ同等、第3〜6種(70〜40%)は2割特例の方が有利になりやすい、という関係になります。サービス業(第5種)は2割特例の方が有利なケースが多いといえます。
計算方法の比較(納付=売上に係る消費税額に対する割合の目安)
計算方法納付の目安事前届出特徴
本則課税実額による(還付もあり得る)不要経費・設備投資が多い年に有利になりやすい
簡易課税(第5種)50%必要(前年中まで・2年継続)経費が少ないサービス業で有利になりやすい
2割特例20%不要(申告書に付記)対象者・対象期間が限定(個人は令和8年分まで)
2割特例は期間限定の経過措置です。個人事業主は令和8年分(2026年分)が最後で、令和9・10年分は個人事業者向けの「3割特例」(納付30%・みなし仕入率70%相当)が使えます。令和9年分以降は、3割特例・簡易課税・本則課税のどれが有利かを改めて試算するとよいでしょう。サービス業(第5種=納付50%)なら、令和9・10年分は3割特例(30%)の方が有利になりやすい点も押さえておきましょう。

簡易課税を選ぶ前のチェックリスト

  • 基準期間(前々年)の課税売上高が5,000万円以下か確認した
  • 自分の事業の事業区分とみなし仕入率(サービス業は原則第5種=50%)を確認した
  • 本則課税・簡易課税・(使えるなら)2割特例/3割特例で試算し、納税額の少ない方法を比べた
  • 大きな設備投資の予定がないことを確認した(簡易課税中は還付を受けられない)
  • 使いたい年の前年12月31日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を出す段取りを確認した
  • 2年間は本則課税に戻せないことを理解した

どの計算方法が有利かは、日々の売上と経費がきちんと記録できていてこそ正しく比較できます。会計ソフトを使うと、消費税の集計や本則・簡易の比較、申告書の作成までまとめて楽になります。各ソフトの消費税申告への対応状況は主要クラウド会計3社の比較表にまとめています。インボイス登録を続けるか・やめるかの判断はインボイス登録の取消し、請求書の記載要件はインボイスの記載要件で整理しています。

よくある質問

簡易課税制度とは何ですか?

仕入れや経費にかかった消費税を実際に集計しなくても、売上に係る消費税額に事業区分ごとの「みなし仕入率」を掛けた金額を仕入税額とみなして納付税額を計算できる制度です。売上だけで計算できるため事務負担が軽くなります。適用できるのは基準期間(個人は前々年)の課税売上高が5,000万円以下で、事前に届出書を出した場合です。

簡易課税の届出はいつまでに出せばよいですか?

適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。課税期間が暦年の個人事業主の場合、ある年から簡易課税を使うには前年の12月31日までに届出を出しておく必要があります。なお、いったん選ぶと最低2年間は本則課税に戻せません。

フリーランスのみなし仕入率は何%ですか?

デザイナー・ライター・エンジニア・コンサルタントなどのサービス業は原則として第5種事業に当たり、みなし仕入率は50%です。飲食店業は第4種(60%)、自分で製造した物を販売する場合は第3種(製造業70%)に当たることがあるなど、業種によって区分が変わります。詳しくは国税庁タックスアンサーNo.6509で確認してください。

簡易課税と2割特例はどちらが有利ですか?

2割特例はみなし仕入率80%相当(納付は売上の消費税額の2割)です。簡易課税と比べると、第1種(卸売業・みなし90%)は簡易課税が有利、第2種(小売業・みなし80%)はほぼ同等、第3〜6種(みなし70〜40%)は2割特例の方が有利になりやすい関係です。サービス業(第5種)は2割特例の方が有利なケースが多いといえます。実際の数字で試算して選んでください。

簡易課税を選ぶと消費税の還付は受けられますか?

受けられません。簡易課税は仕入れの実額を使わずみなし仕入率で計算するため、大きな設備投資をして仕入れの消費税が売上の消費税を上回るような場合でも還付になりません。設備投資を予定している年は、実額で計算する本則課税の方が有利になることがあります。簡易課税は最低2年間続ける必要がある点にも注意してください。