インボイス2割特例の使い方と、いつまで使えるか

「2割特例」は、インボイス制度をきっかけに免税事業者から課税事業者(適格請求書発行事業者)になった人の消費税の負担を軽くするための経過措置です。売上に係る消費税額の2割だけを納めればよいという仕組みで、面倒な仕入れ・経費の集計をしなくても納税額を計算できます。ただし使える人と使える期間が限られている点が要注意です。この記事では、国税庁の公開情報をもとに、2割特例の計算方法・適用できる期間・申告のしかたを整理します。

本記事は2026年9月1日時点の国税庁の公開情報をもとにした一般的な解説です。個別の判定(対象になるか、どの計算方法が有利か)は、登録の経緯や売上の状況によって変わります。迷う場合は税務署や税理士に確認してください。

2割特例とは:売上の消費税額の「2割」だけ納める

2割特例を適用すると、売上(課税売上げ)に係る消費税額の80%を「特別控除税額」として差し引けるため、結果として納める消費税は売上に係る消費税額の20%(2割)になります。原則課税(本則課税)のように仕入れや経費の消費税を一つひとつ集計する必要がなく、売上だけ分かれば納税額が計算できるのが最大のメリットです。

2割特例の計算(国税庁)
項目内容
納める消費税売上に係る消費税額 −(売上に係る消費税額 × 80%)= 売上に係る消費税額 × 20%
集計するもの課税売上げのみ(税率ごとに区分は必要。仕入れ・経費の集計は不要)
事前の届出2割特例の適用については不要(申告書に適用を受ける旨を付記し、必要な申告書・付表等を提出)
選べる単位課税期間ごとに、適用するかしないかを選べる

たとえば1年間の課税売上げ(税抜)が500万円・税率10%なら、売上に係る消費税額は50万円。2割特例ではこの20%にあたる10万円が納付の目安です(地方消費税を含むおおまかな考え方。実際の申告では端数処理等があります)。預かった消費税のおおよその額は消費税の計算ツールで確認できます。

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誰が使える?対象になる人・ならない人

2割特例の対象は、インボイス制度をきっかけに、免税事業者から適格請求書発行事業者(課税事業者)になった人です。言い換えると「インボイス登録をしなければ免税事業者のままだったはずの人」が対象です。次のような人は対象外(または対象にならない課税期間がある)とされています。

  • 基準期間(個人は前々年)の課税売上高が1,000万円を超えることで課税事業者になる課税期間 → 対象外。インボイスと関係なく課税事業者になるため。
  • 特定期間の課税売上高等により課税事業者になる課税期間 → 対象外。
  • 「消費税課税事業者選択届出書」を提出して令和5年10月1日より前から課税事業者になっていた期間 → 原則対象外(一定の場合を除く)。
  • 課税期間を1か月・3か月に短縮する特例を選択している課税期間 → 対象外。
  • 調整対象固定資産・高額特定資産の仕入れ等で本則課税により仕入税額控除を行うなど、一定の場合 → 対象外。
売上が伸びて「基準期間の課税売上高1,000万円超」で課税事業者になる場合は2割特例を使えません。このケースは原則課税か簡易課税で計算します。詳しくは売上1,000万円を超えたらを参照してください。自分が課税・免税どちらに当たるかは課税・免税の判定フローで整理できます。

いつまで使える?個人事業主は「令和8年分(2026年分)」まで

2割特例を適用できるのは、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間です。個人事業主の課税期間は原則として暦年(1/1〜12/31)なので、対象は次のようになります。

個人事業主が2割特例を使える年分(暦年が課税期間の場合)
年分2割特例備考
令和5年分(2023年)可登録日(令和5年10月1日以降)から12/31までの期間が対象
令和6年分(2024年)可—
令和7年分(2025年)可—
令和8年分(2026年)可令和8年9月30日を含む課税期間 → 個人はこの年が最後
令和9年分(2027年)以降不可令和9・10年分は、要件を満たす個人事業者に限り後述の「3割特例」が使える
今は2026年(令和8年)です。個人事業主にとって令和8年分(2026年分)の確定申告(2027年3月期限)が、2割特例を使える最後の申告になります。来年以降の見通しを立てるなら、後述の3割特例や簡易課税との比較を早めに検討しておくと安心です。

申告のしかた:特例の事前届出は不要、申告書に適用の旨を付記

2割特例を選ぶための事前届出は不要です。ただし、申告書への一言だけで申告手続が完結するわけではありません。消費税及び地方消費税の確定申告書に2割特例の適用を受ける旨を付記し、申告区分に応じて申告書第二表や該当する付表・計算表等を提出します。2割特例を使うかどうかは、課税期間(年)ごとに選べます。

  • まず、その課税期間について2割特例の対象になるかを確認する。対象外なら申告時に選ぶことはできない。
  • 対象になる場合は、本則課税・簡易課税のどちらを適用している人も、申告時に2割特例を選べる。
  • ただし、本則・簡易課税・2割特例の3つを毎年自由に切り替えられるわけではない。簡易課税の届出状況を確認し、その年に適用できる方法同士で比べる。
2割特例の対象者が比較する方法(2026年9月24日確認)
その年の通常の計算方法比較できる方法と注意点
本則課税を適用する場合本則課税と2割特例を比較する。簡易課税を使うには、別途その適用要件・届出期限を満たす必要がある。
簡易課税を適用する場合簡易課税と2割特例を比較する。2割特例を選んでも簡易課税の届出が取り消されるわけではなく、その年だけ自由に本則課税へ戻せるわけではない。

簡易課税をやめるには、原則としてやめたい課税期間の初日の前日までの不適用届出が必要で、継続適用の制限もあります。設備投資で還付を見込む場合は、支出前に届出の効力と本則課税へ戻れる時期を確認してください。手続きと例外は国税庁No.6505「簡易課税制度」で確認できます。

2割特例が必ず最安とは限りません。卸売業では簡易課税の方が納付額が少なくなる場合があり、大きな設備投資をした年には本則課税で還付になる場合もあります。ただし、金額の比較より先に、その年に適用できる制度かを確認してください。2割特例では仕入税額が売上税額を上回ることによる還付は受けられません。

2割特例の後に簡易課税へ切り替える特例

簡易課税制度は原則として、適用を受けたい課税期間の初日の前日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要があります。ただし2割特例または3割特例を適用した翌課税期間については、その翌課税期間に係る消費税の確定申告期限までに、翌課税期間から簡易課税を適用する旨を記載した届出書を提出すれば、その翌課税期間から簡易課税を適用できます。課税期間が暦年の個人事業者が令和8年分に2割特例を使い、令和9年分から簡易課税へ移る場合もこの対象です。なお、その翌課税期間が令和8年9月30日以前に終了する場合は、従来どおりその翌課税期間中が提出期限です。

令和9・10年分は個人事業者向けの「3割特例」(令和8年改正で創設)

令和8年度の税制改正で、2割特例の後継となる「3割特例」が創設されました。対象は、原則としてインボイス発行事業者の登録を受けたことで免税事業者から課税事業者となる個人事業者です(課税選択届出書の提出で課税事業者となった元免税事業者を含みます)。登録時にすでに課税事業者だった場合でも、登録を受けた課税期間の翌課税期間以後は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下などの要件を満たせば原則として対象になります。適用できるのは令和9年分(2027年分)と令和10年分(2028年分)の2年分だけで、納付税額を売上税額の3割とする経過措置です(売上税額の70%を特別控除するイメージ)。

2割特例と3割特例の比較(国税庁の公開情報をもとに整理)
項目2割特例3割特例
対象免税事業者からインボイス登録した事業者(個人・法人)免税事業者からインボイス登録で課税事業者となる個人事業者、または登録時に課税事業者だった個人の翌課税期間以後(基準期間などの要件あり)
対象期間令和5年10月1日〜令和8年9月30日を含む課税期間(個人は令和5〜8年分)令和9年分・令和10年分
納める消費税売上に係る消費税額 × 20%課税標準額に対する消費税額 × 30%
事前届出特例の適用については不要(申告書に付記)特例の適用については不要(申告書に付記)
3割特例は、個人のインボイス発行事業者なら全員が使える制度ではありません。基準期間の課税売上高が1,000万円を超える年、特定期間の判定で免税点制度の適用が制限される年、課税期間を1か月・3か月に短縮している場合、高額資産の取得などで免税点制度の適用が制限される場合などは対象外です。負担割合も2割から3割へ上がるため、令和9年分・令和10年分は3割特例・簡易課税・本則課税を実額で比較してください。

2割特例を使う前のチェックリスト

  • インボイス登録をしなければ免税事業者だった人に当たるか確認した(売上1,000万円超などで課税になる年は対象外)
  • 対象の課税期間か確認した(個人事業主は令和8年分=2026年分が最後/令和9・10年分は要件を満たす個人事業者のみ3割特例)
  • 2割特例のための事前届出は不要で、確定申告書に適用を受ける旨を付記し、必要な申告書・付表等を提出することを理解した
  • 簡易課税の届出状況と2割特例の対象要件を確認し、その年に適用できる方法同士で税額を比較した
  • 簡易課税へ切り替える予定があるなら、原則として2割・3割特例適用の翌課税期間の確定申告期限までの届出でその期間から適用できる移行措置を確認した
  • 売上の消費税額の目安を確認し、納税資金を別口座などで確保した

2割特例は手間が少なく負担も軽い有利な制度ですが、期間限定です。インボイス登録を続けるか・やめるかの判断はインボイス登録の取消し、登録を続ける場合の請求書の書き方はインボイスの記載要件で整理しています。日々の売上・消費税の管理は会計ソフトを使うと、申告時の計算方法の比較も含めて大幅に楽になります。導入を検討するならクラウド会計ソフトのランキングと比較が参考になります。

よくある質問

本則課税・簡易課税・2割特例は毎年自由に選べますか?

3つを自由に切り替えられるわけではありません。2割特例の対象者は、本則課税または簡易課税と2割特例を申告時に比較できますが、本則課税と簡易課税の切替えには届出や継続適用の制限があります。簡易課税の届出が有効な場合、還付を受けたいという理由だけでその年を本則課税にすることはできません。

2割特例とは何ですか?

インボイス制度をきっかけに免税事業者から適格請求書発行事業者(課税事業者)になった人が、消費税の納付税額を「売上に係る消費税額の2割」にできる経過措置です。売上に係る消費税額の80%を特別控除税額として差し引けるため、仕入れや経費を集計しなくても売上だけで納税額を計算できます。

2割特例はいつまで使えますか?

令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間で使えます。課税期間が暦年の個人事業主の場合、令和5年分(登録日〜12/31)から令和8年分(2026年分)までが対象で、令和8年分の申告が最後になります。令和9年分・令和10年分は、要件を満たす個人事業者に限り3割特例を使えます。

2割特例を使うのに届出は必要ですか?

2割特例を選ぶための事前届出は不要です。消費税の確定申告書に2割特例の適用を受ける旨を付記し、申告区分に応じて申告書第二表や該当する付表・計算表等を提出します。課税期間(年)ごとに、適用するかしないかを選べます。簡易課税の届出を出している人も、申告時に2割特例と簡易課税を比較できます。

売上が1,000万円を超えても2割特例は使えますか?

使えません。基準期間(個人は前々年)の課税売上高が1,000万円を超えたことで課税事業者になる課税期間は、インボイスと関係なく課税事業者になるため2割特例の対象外です。この場合は原則課税か簡易課税で計算します。

3割特例とは何ですか?

令和8年度税制改正で創設された経過措置です。原則として、インボイス登録により免税事業者から課税事業者となる個人事業者が、令和9年分(2027年分)・令和10年分(2028年分)に限り、納付税額を売上税額の3割にできます。基準期間の課税売上高が1,000万円を超える年などは対象外です。特例のための事前届出は不要ですが、申告書に適用を受ける旨を付記し、必要な申告書・付表等を提出します。

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